大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和39年(人)2号 決定

請求者兼被拘束者 平野政雄

拘束者 神戸拘置所長

主文

本件請求を却下する

手続費用は請求者の負担とする。

理由

一、本件請求の趣旨は、「請求者兼被拘束者(以下単に請求者という)のため拘束者に対し人身保護命令を発付し、請求者を釈放する。手続費用は拘束者の負担とする。」との判決を求めるにあり、その理由とするところは、つぎのとおりである。

(一)  請求者は、昭和三九年五月一二日神戸地方裁判所において業務上横領等被告事件につき、懲役四年に処する判決の宣告を受け、同日神戸拘置所に収監のうえ拘束されていたが、請求者は右収監手続が法の定める手続を践まずになされたものとして同裁判所に対し人身保護の請求をなし、同裁判所昭和三九年(人)第一号人身保護請求事件として審問がなされ、その結果同年九月一一日同裁判所によつて人身保護法第一六条第三項により釈放された。しかるに、請求者は同月一五日再び神戸拘置所に収監され、爾来現在に至るまで同拘置所に拘束されている。

(二)  しかしながら、本件拘束は、つぎの理由により法令の定める方式もしくは手続に著しく違反していることが顕著である。

(1)  請求者は前記のとおり人身保護法によつて救済を受けたのであるから、同法第二四条により、請求者に対してなされた勾留の裁判および前記の昭和三九年五月一二日の収監以後の各勾留更新決定は、いずれもその効力を失つたものというべく、また請求者は右収監の日から人身保護の裁判によつて釈放されるまで勾留されていたのであり、かつその期間中においてなされた各勾留更新決定はいずれも前記のとおりその効力を失つたのであるから、本件拘束がなされる以前に請求者に対する勾留状による勾留期間は満了していたものである。

したがつて、請求者を再び拘束するためには、新たに法の定める手続を履践しなければならないところ、これを履践せずになされた本件拘束は、法令の定める方式もしくは手続に違反している。

(2)  人身保護法第二五条によれば、同法によつて救済を受けた者は、裁判所の判決によらなければ、同一の事由によつて重ねて拘束されない、とされているところ、請求者に対する本件拘束は、同一の事由につき裁判所の判決によらずになされたものであるから、法令の定める手続に違反している。

(三)  なお、請求者は、本件請求をなす前の昭和三九年九月二六日神戸地方裁判所から同月二四日付の勾留更新決定の通知を受けたので、本件請求と同一の理由により右勾留更新決定に対し同月二八日付で大阪高等裁判所に抗告したが、以前に請求者に対してなされた勾留更新決定につき、同年五月二五日同高等裁判所に抗告をなしたところ、三か月近くを経過した同年八月一九日に至つてようやくこれが決定がなされたことがあり、前記抗告についても決定がなされるまでには、同様の長期間を要するものと考えられるので、右救済方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白であるから、本件請求に及んだ。

二、そこで判断するに、人身保護の請求は、人身保護規則第四条の要件を具備したときに限り許されるのであり、そして、同条但書は、たとえ拘束が同条本文に該当する不法なものであつても、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは右但書後段の要件を具備しない限り人身保護の請求ができないことを定めたものであると解すべきであるから、先ず、本件請求が同条但書の要件を具備するものであるか否かについて検討する。

請求者の主張するところによれば、同人は本件拘束後であつて本件請求をなす以前の昭和三九年九月二八日付をもつて、神戸地方裁判所がなした同月二四日付の勾留更新決定に対し大阪高等裁判所に本件請求と同一の理由により抗告を申し立てているのであるから、右抗告が認容されれば、請求者は釈放されることになるので、右抗告は、人身保護規則第四条但書前段の「他に救済の目的をするのに適当な方法があるとき」に該当するものというべきである。

よつて進んで、同条但書後段が規定する、右方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白であるか否かについて考えるに、この点につき請求者は以前に同人に対してなされた勾留更新決定につき大阪高等裁判所に抗告したところ、三か月もの長期間を経過してようやく決定がなされたから、このたびの抗告についても決定がなされるまでには、同様の長期間を要すると主張するけれども、以前に勾留更新決定に対する抗告につきこれが決定がなされるまでに三か月もの長期間を要したとの一事のみをもつてしては、事案を異にする前記昭和三九年九月二八日付の抗告に対しこれが決定がなされるまでに同様の期間を要するものと速断できず、他に右の救済方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白であることを認めるに足りる疎明方法はない(なお、本件記録によると、請求者は宣誓をもつてこの点の疎明方法の提供に代えることの申出をなしているが、宣誓をもつてこの点の疎明方法の提供に代えることは相当でない。)。

三、以上のとおり、請求者の本件請求は人身保護規則第四条但書の要件を欠くから、これを却下することとし、手続費用について人身保護法第一七条、民事訴訟法第八九条を各適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 矢島好信 松原直幹 辻忠雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例